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札幌高等裁判所 平成7年(く)41号 判決 1995年11月07日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、被告人の夫荒木力作成の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。論旨は、要するに、原決定は、本件保釈請求について、刑訴法八九条三号の事由があるとしてこれを却下したが、被告人に右事由はないから、原決定は不当である、というのである。

そこで一件記録を調査して検討すると、本件は、被告人の配偶者の請求した保釈請求の却下決定に対する、右請求人からの抗告の申立てであるところ、原裁判所は、本件抗告の申立てに対して、不適法であるとの意見を付しているから、まず、本件抗告の適否を判断する。

保釈に関する裁判に対して、検察官と被告人以外の者で抗告ができるのは、刑訴法三五三条あるいは同法三五五条による場合は別として、抗告申立人が、同法三五二条にいう「検察官又は被告人以外の者で決定を受けたもの」に当たる場合である。本件においては、抗告申立人について、同法三五三条あるいは同法三五五条による抗告権が認められる場合ではないことが明らかであるから、本件保釈請求をした抗告申立人である配偶者が右「決定を受けたもの」に当たるかどうか、が問題となるところ、配偶者は、同法八八条一項により保釈請求権を認められており、同条により保釈を請求したのに、その許否の決定に対して不服申立てができないと解することはいささか不自然であるというべきである。なるほど、保釈許否の決定の実質的効果は勾留されている被告人本人に及ぶものであるが、検察官又は被告人以外の保釈請求権者は、実質的に同法三五二条にいう「検察官又は被告人以外の者で決定を受けたもの」に当たるかどうか、検討すると、まず、右「決定を受けたもの」とは、決定によって、法律上権利が生じ又は義務を負わされたものをいうと解すべきところ、同法九四条二項に照らすと、保釈請求者は、保釈許可決定によって、保釈保証金を自己の名によって納付する権限を付与され、保釈請求却下決定の場合は、その権限付与が否定される。したがって、保釈保証金を納付した者あるいは保証書を差し出した者が保釈保証金没取決定に関して同法三五二条の「検察官又は被告人以外の者で決定を受けたもの」に当たるとされている(最高裁判所大法廷昭和四三年六月一二日決定参照)のと同様、保釈請求者も、また、実質的な、右法条にいう「決定を受けたもの」に当たるというべきである(なお、実際にも、保釈許可決定に対し、例えば、保釈保証金の額について不満があれば、保釈請求者にも抗告権を認めるのが相当である。)。

なお、法律や規則に格別の規定がないが、保釈に関する裁判書には、被告人の氏名等の外に、保釈請求者の氏名等も表示している上、保釈請求者に対して、その裁判の告知もしているのが実務の現状であるから、形式的にも、保釈請求者は、保釈に関する裁判の名宛人であり、更に同法三五二条にいう「検察官又は被告人以外の者で決定を受けたもの」に当たるとしているとも考えられる。

以上のとおりであるから、保釈請求をした配偶者のなした本件保釈請求却下決定に対する抗告は、適法である。

そこで、すすんで本件抗告について検討すると、本件は、被告人が、平成七年一月ころから何度も覚せい剤に手を出すうち、本件の覚せい剤使用により検挙されたという事案である。被告人には同種前科のあることは認められないものの、常習として長期三年以上の懲役にあたる罪を犯したものであると認められるから、本件が同法八九条三号所定の場合に当たるとした原決定の判断は相当である。したがって、権利保釈には当たらない。また、本件の事案の内容、記録により認められる被告人の前科関係、犯行の経緯、生活状況等に照らすと、身辺整理、健康状態等、被告人の夫が保釈請求に当たり指摘している諸事情を十分考慮しても、本件で裁量保釈も相当でないとした原決定の判断に誤りはない。本件保釈請求を却下した原決定は相当である。論旨は理由がない。

よって、同法四二六条一項により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 萩原昌三郎 裁判官 宮森輝雄 裁判官 高麗邦彦)

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